第21章 奇行種、疾走、驚愕、誘導尋問
「え?」
そう言うと、リヴァイは組んだ脚に頬杖をついたまま視線をフイッとクレアから逸らしてしまった。
──名残惜しく──
確かに一昨日で副官代理の仕事は終了した。
医師から訓練を禁止された時にはさすがに落ち込んだが、怪我が治るまでの間は一日中リヴァイの側で仕事をすることができたのだ。
クレアだって、リヴァイの側にずっといられた時間は不謹慎だが嬉しく思っていた。
今日からクレアはまた兵士としての日々を過ごす事になる。
言い返せば、2人でいられるのは朝のわずかな時間しかない生活に戻るのだ。それをリヴァイは名残惜しいと思ってくれている。
まさかリヴァイがそんな風に思ってくれていたとは…クレアは訓練再開に浮かれてしまっていた自分に少し反省をした。
「兵長…あの…すみません……私…」
なんて声をかければ…と思っていたらそっぽを向いていたリヴァイが再びクレアに視線を向けた。
そして、クレアの両肩を押すと、静かにソファに押し倒した。決して乱暴にではない、優しくだ。
「兵長?」
下から見上げれば、リヴァイは少し自虐的に苦笑いをしている。こんな表情を見るのはもしかすると初めてかもしれない。
「恋人の怪我が治って、やっと訓練を再開できるとなったのに、俺は何やってんだかな。こんなに器の小さな男だとは思わなかった。人類最強が聞いて呆れる。」
「そ、そんなこと言わないで下さい!すみません!私もちょっと浮かれすぎてました…私だって副官代理として兵長の側にいられた時間は、とても嬉しかったんです。」
「お前は、こんな俺を情けないと思わないのか…」
「思いません!!私だって、一緒にいられる時間が短くなれば寂しく思います。」
「そうか…俺は、お前の前だけなら無様な男に成り下がっても許してくれるんだな?」
「無様だなんて……私はどんな兵長でも、嫌いになったりはしません……なので、安心して下さい…」
安心して下さいなど、上から目線であっただろうか…
でも、今朝のリヴァイはいつものリヴァイとは少し様子が違った。この言葉の選択が間違いだったとは思いたくない。