第20章 愛しい奇行種
──幸福感──
初めて感じるその感覚に心地よく身を任せていたが、ふと天井を見上げ、ぐるりと部屋を見渡せば目に入ってきたのは自由の翼が描かれた調査兵団の兵服とマント。
「…………………。」
それを見た瞬間に一気に現実へと引き戻された。
そしてその兵服を見て思い知らされる。
クレアといられる時間のその先の色は、限りなく不透明であることに。
ファーランとイザベルを失った時、大切な仲間を失った時、慕ってくれた部下を失った時、絶望を感じなかったといえば嘘になる。
しかし、今までリヴァイは不思議と恐怖に襲われた事はなかった。
しかし今はどうだろうか…
これからも壁外調査は調査兵が存在する限り行われる。あと何回クレアは生き残れるだろうか。
討伐数も数え切れないほどの戦績を残しているが、先の事などわからない。
愛しいクレアを手に入れた今、リヴァイは少しだけ怖くなった。
自分は調査兵という立場でありながら、失う事のできない……いや、絶対に失えないものを手にしてしまったのだ。もしクレアを壁外調査で失うような事になったら……リヴァイはその先の自分を想像する事ができなかった。
チクショウ……
こんな思いをするくらいなら訓練兵団に視察に行った時に、特例を認めず退団させればよかったのだろうか……クレアは医者の一人娘だったのだ。働き口はそこそこあったはずだ。
しかし答えは否だ。
クレアが街娘として働き、誰かしらない男と結婚するような人生など、考えただけで反吐がでそうだった。
そう考えると、最初から後戻りなどできるはずもない。
リヴァイはため息混じりにクレアのキンモクセイの香りをかぐと、クレアへの想いを自覚した日のことを、ふと思い出した。
「……………。」
そうだった…あの時俺は誓ったんだ…
このキンモクセイの香りとあの時の星空に。
ファーランとイザベルの時の様な後悔は絶対にしない。
調査兵の恋に幸せがあろうとなかろうと関係ない。
それ程までにクレアが欲しい。
と。
なぜ忘れてしまっていたんだ。
想像以上の幸せな心地に頭がバカになってしまっていたのだろうか。
これが俗に言う「幸せボケ」か?
リヴァイは眉間にシワを寄せて舌打ちをした。