第19章 大雨と雷鳴とハンジ班の奇行種
リヴァイに傘を持たせないように仕向けたのは全てハンジの策略だった。
まさかここまでうまく天気の読みが当たるとは思っていなかったが、もはやこれは2人の仲の進展を願っての荒療治という名の最終手段だ。
さて、今頃びしょ濡れになりながらどの辺を走っているのだろうか。
ハンジは口元がニヤニヤするのを止められなかった。
「うーーん!これでくっつかなければ本当にお手上げだなぁ。」
もう一度湯船の中で伸びをすると、少し愚痴るように呟く。
この策略は、もちろん可愛いがっているクレアと、大切な友人リヴァイを想ってのものであったが、ハンジはエルヴィンの事も同様に気にかけていた。
口ではリヴァイの心配ばかりしているエルヴィンだったが、ここ最近のエルヴィンは、視線の先にクレアがいると、自身の内に潜む何かと葛藤しているかのような表情をしていた。そんなことに、ハンジはとっくに気づいていた。
その理由には大方予想がついていたし、エルヴィンの考えている事もなんとなく読めている。
リヴァイのために身を引いたエルヴィンの為にも2人には色んな意味で結ばれてほしい。
ハンジは軽くため息をつきながら風呂を上がると、再び兵服に着替えて大浴場を後にした。
激しい雷雨に廊下の窓はガタガタと鳴り、古い兵舎は心なしかギシギシと軋んでる様にも感じる。
時折近くで落雷する音も聞こえるが、そんなのはお構いなしだ。ハンジは、雨も雷も荒れるなら好きなだけ荒れてくれと思いながら、意気揚々と執務室へと戻って行った。
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──バタン──
無言を肯定と解釈したリヴァイはクレアの手を引きながら自室にもどってきた。
──ドンッ──
クレアの背中を扉に押し付け、リヴァイも両手をついた。
ずぶ濡れになった2人は、お互いの髪や服からポタポタと雨水が滴り落ち、床にはまたたく間に水溜りができていく……
ポタッ…ポタッ…ポタッ…ポタッ…ポタッ…
外では雷鳴が鳴り響き窓はガタガタと音を立てているのに、この部屋の中は不気味な程静寂で、雨水の滴り落ちる音が研ぎ澄まされるように響いていた。
至近距離で見つめ合うこと数分…
リヴァイは、頭に被せてやっていた自身の上着を床に投げ捨てると、濡れて頬にはりついているクレアの髪を優しく手でといていった。