第19章 大雨と雷鳴とハンジ班の奇行種
お互いがお互いの胸の内をわからぬままただただ見つめ合う。
厚い雲に覆われた夜空には雷光が走り、雷鳴は段々と大きく兵舎に近づいている。今にも落雷しそうな天候だ。
しかしザァーザァーとうるさい雨音はお互いの雑念を全てかき消していき、それぞれの素直な気持ちだけがどんどん研ぎ澄まされていく。
雑念が振り払われ研ぎ澄まされた胸に残ったものは、互いを想う気持ちのみ。
耳障りな程の雨音の中リヴァイは思う。
クレアが好きだ…
このまま返したくはない…
どうしようもなくクレアが欲しい…
落雷寸前の雷鳴が轟く中クレアは思う。
兵長が好き…
このまま帰りたくない…
どうしても伝えたい…
冷たい雨を頭から全身に浴びているはずなのに繋がれた手の中は火が灯っているかのように熱い。
握られた手の繋がりは強く、リヴァイもクレアも、離す気はなさそうだ。
しかしこのままここにいる訳にもいかない。
どうするのか……
「おい……」「あの……」
2人が同時に口を開いた時だった。
クレアの背後に大きな雷光が走り一瞬パンッと明るくなる。
「!!」
ピシャーーーン!!!!
間髪入れずに轟音が鳴り響いた。
兵舎近くに落雷したようだ。
「ヒヒーーン!」
ドカンッ! ドカンッ!
厩舎の方からは、落雷に驚いた馬達の、馬房を蹴る音が聞こえてきたが、そんな事は今はどうでもいい。
打ち付ける雨に頭を冷やされ、且つ落雷の轟音によって想いを駆り立てられたリヴァイは、もう自分の想うがままに動く事しか考えられなかった。
ザァァァァァァァァァァ………
「……クレア…俺の部屋に来い……」
その言葉にドクンと一瞬胸が高鳴ったが、もちろん断る理由などない。
クレアは強く握られた手を、更にぐっと握り返すと、リヴァイはそれを肯定と判断し、手は繋がれたまま兵舎に向かって走り出した。
──エルド、グンタ、ペトラ、ついでにオルオ…せっかく教えてくれたのにすまないな…どうやら俺にはお前達の教えは難しかったみてぇだ……──
親身になってアドバイスをしてくれた大切な部下に心の中で謝罪をすると、リヴァイは自身の部屋まで急いだ。