第4章 懇願
「はぁ……」
リヴァイは盛大にため息をついた。
机の上で山積みになっている仕事がまったく手につかないのだ。
頭に入れとかなければならない資料を見ても、文字の羅列がクルクルフワフワと宙を舞い、まったく頭に入らない。
リヴァイの頭の中はクレアのことでいっぱいだった。
森の中から飛び出してきた時のあの挑発的な、好戦的な表情が頭から離れない。
なぜかサディスティックな色気にも感じ、身体が一気に興奮した。
あの時の興奮がフラッシュバックのように何度もよみがえる。
そのうちに興奮の熱が段々とリヴァイの下半身に集中しだした。
「クソッ、いったい何なんだ……」
舌打ちをしながら、最後に女を抱いたのはいつだったかと思い返してみる。
「……」
しかし、それがいつだったかなかなか思い出せない。
リヴァイは30代前半、もちろん経験がない訳ではないが、特定の恋人を持ったことがなかった。
潔癖症のため娼館を利用する気もない。
以前エルヴィンが招待された貴族の夜会に同伴させられたことがあったが、性欲を持て余しただけの頭の悪い女の相手をさせられたことがトラウマになり、それ以降は同伴しても早めに退散するようにしている。
調査兵団の資金調達のためといえど、あんな女達の夜の相手などまっぴらごめんだ。
エルヴィンには悪いが、無理なものは無理だ。
しかし、リヴァイは女からよくモテた。
身長は小柄だが顔は整っている。そして人類最強の通り名だ。兵団内でもよく告白をされたり、壁外調査の前には死ぬ前に一度だけ抱いてくれと、懇願されることもたびたびあった。
それでもリヴァイは手頃な女兵士に手を出したり、性欲処理に利用したりはしなかった。
ただ単にしつこく言い寄られるのが面倒くさかったのだ。
娼館にはいかない
女兵士にも手をださない
女の噂もでない
いつもエルヴィンと一緒にいる
そんな状況に
「エルヴィン、リヴァイ、恋人疑惑」などという噂が広まったこともあった。
エルヴィンが相手なんて胸糞悪いが、この噂の効果でしつこい女兵士からのアプローチが減るのであればそれはそれでいいかとリヴァイ本人も黙認していた。