第17章 奇行種、副官代理
だが、エルヴィンだってコイツの事は態度には出さないようにしていたみたいだが、それなりに気に入っていたはずだ。職権乱用で自分の秘書にする事もできたはずだ。しかし、俺のところによこしてくるとはどういう風の吹き回しだ。
そもそもエルヴィンがクレアを気に入っていると思ってのは自分の勘違いだったのだろうか?
まぁどんな形であっても、しばらくクレアは自分の側で副官を務めてくれるのだ。
このチャンスを逃す手はないだろう。
「あ…あの…いきなり副官など、ご迷惑でしたでしょうか?」
リヴァイが急に黙り込んでいた為か、クレアは不安げな表情で覗き込んできた。
「そんなことはねぇよ。今回の壁外調査は被害がでかくて後処理も膨大だ。朝だけではなく副官としても手伝ってくれるなら助かる。」
「よかったです。私頑張りますので宜しくお願いします!さっそく紅茶淹れますね!」
ホッと一安心した表情に戻るとクレアは軽快に紅茶を淹れ始めた。
「お待たせしました。」
リヴァイに淹れる紅茶は久しぶりだ。
しかも、リヴァイの話だと、壁外調査前は機嫌を損ねたり、気持ちが不安定だったりで、美味しい紅茶を淹れることができていなかったようだった。
となると、今この瞬間は非常に緊張する。
「あぁ、すまないな。」
いつもの様に受け答えをして、カップに口を付け一口飲む………
「……機嫌は直ったみてぇだな。もう変な妄想するんじゃねぇぞ。」
「き、肝に命じます……」
察するに、兵長の好みの味に戻っていたのだろう。
その様子に安堵すると、クレアはリヴァイの机の書類の束をソファのテーブルに移動させようと手を伸ばしたが、その手はリヴァイによって制止されてしまった。
「……?!」
「おい、お前は先に座ってろ。重いものは持つなって言われているだろ。仕事は任せるが、重いものは持つなよ。」
リヴァイは大量の書類をドン!ドン!と2人分テーブルに並べると、いつものスタイルで、仕事がスタートした。
もう壁外調査前の気まずい雰囲気はなく、ここはリヴァイが好きな、クレアのキンモクセイがほのかに香る、忙しくも穏やかな執務室だった。
どんな怪我をしていようと、生きてクレアが隣にいる。兵士である以上それは当たり前ではなく、特別な事なのだとリヴァイは改めて実感した。