第16章 奇行種、奮闘
「あ?何の謝罪だ?」
「あの…壁外調査前に、私がちょっと機嫌を悪くしていた件です…私の一方的な勘違いでした…本当にすみません……」
そうだ、コイツはあの女兵士が押しかけてきた日からなんだか様子がおかしかった。
淹れる紅茶の味が変わるほどにだ。
謝るということは何かしら理由があるんだな…
この俺をあれだけヤキモキさせたんだ。
きっちりと理由を聞かねぇと納得がいかねぇな。
「そうだったな、思い出した。お前はいきなり不機嫌になったあげく、理由も言わねぇし、紅茶もいつもの美味い味ではなかった。俺がどんな気持ちでいたかわかっていたのか?謝るなら理由くらい教えろ。」
理由…やはり言わなくてはダメそうだ…
クレアは気まずそうにボソボソと話し始めた。
「あのですね…兵長と女性兵士の方とのキスシーンを見てしまったときに、なんとなくなのですが……いくらけむたがっている兵長でも、あんなに押しかけてこられたら心変わりしてしまうのではないかと、勝手に不安になってしまったのです……」
「はぁ?そんな事はありえないと前の壁外調査前に説明してあっただろ?それになんでお前が不安になるんだ…?」
そ、それを今ここで言えというのか?
──リヴァイ兵長の事が好きだから──…と。
クレアはヒヤヒヤと悪い汗が出始めてしまう。
リヴァイに想いを伝えなくてはと重い腰を上げたところではあったが、今は壁外調査で負傷し、身体はボロボロだ。
まだ何にも心の準備はできていない。
「兵長に特別な誰かができてしまったら…今の私の仕事は、その人のものになってしまうと思ったんです…」
今のクレアにはこれが精一杯の返答だった。
「はぁ……もう一度言うぞ。押しかけてくる女兵士に興味のかけらもねぇ。もう変な妄想して勝手に不機嫌になるのはやめろ、いいな?」
「はい…すみませんでした…」
「それと、今度はいつもの美味い紅茶を淹れてくれよ。」
「すみません…いつもと違う味だったとは、自分で飲んでいても気づきませんでした…」
「それだけ、心ここにあらずって事だったんだな。」
「………申し訳ありません。」
「まぁ、いい。お前がそこまで今の仕事にやりがいを感じてるとは意外だった。」
そこまで言うと、何故だがリヴァイの口元が悪い笑みを浮かべた。