第16章 奇行種、奮闘
愛しいクレアの髪の毛を口元に当て、香りを吸い込むと、リヴァイの胸はキンモクセイで一杯になる。
ここでやっと、リヴァイはクレアと生きて再会できたと実感をした。
しかし、もっとクレアが生きてここにいると感じたい。そう思ったリヴァイはなんの躊躇もなく後ろから優しくクレアを抱き締めた。
「へ、兵長?!」
驚いた様子で身じろぎをするが、抵抗している訳ではなさそうだ。
リヴァイはクレアの脇腹が痛まぬように気をつけると、首元に顔を埋め、キンモクセイの香りを堪能する。胸元にまわした腕からはクレアの力強い心臓の鼓動が伝わり、ホッと安堵した。
「絶対に死ぬな……って言ったじゃねぇかよ…」
予想外のリヴァイの言葉にクレアは返答に困ってしまう。
「え?えーと、私は死んでません。」
確かに昨日の朝、別れ際に「死ぬな」と言われたのは覚えていたが、自分はちゃんとこうして生きている。
「バカヤロウ、モブリットが血だらけのお前を抱えてハンジと講堂を飛び出していくのを見た時には、お前はもう死んだのかと思ったんだ……驚かせやがって……」
………死んだのかと思った?自分はリヴァイにとって死んでほしくはない存在なのだろうか。ドキドキと高鳴る心臓がその真意を知りたがっている。
「あ、あの……」
「生きててよかった………」
そう言うと、少し遠慮がちに抱きしめる力が強くなった。
……生きてて……よかった…?
聞き間違いでなければ確かに今兵長は生きてて良かったと、私に言った……
壁外調査前に、あんなにも不機嫌な態度をとってしまったのにも関わらず、兵長はずっと私が生きて帰ってくる様願っててくれたのだろうか…
それなのになんて事をしてしまったのだ…
一瞬でも押しかけてくる女兵士に対して拗ねた態度を取った自分が恥ずかしくなり、申し訳ない気持ちが溢れ出してしまう。
ずっと謝るタイミングを逃していたが、今ならちゃんと言えそうだ。お願いだからもう誰も邪魔をしないで…クレアは心の中呟いた。
「兵長…ごめんなさい…」
クレアの無事がわかり安堵していたリヴァイは、壁外調査前のクレアの謎の不機嫌の事など、すっかり忘れてしまっていた為、何の謝罪なのかわからなかった。