第16章 奇行種、奮闘
ただただ苦笑いを返すことしかできないでいると…
「おい!俺に背中を向けて座れ!まだ髪が濡れている。」
「え?!」
自分が歩いてきた道のりを振り返ると、苦労して片手で団子状にまとめた髪からポタポタと水が垂れていた。
「あぁ!!すみません!!すぐに拭きますから!」
「負傷兵が何ぬかしてやがる!いいから言われた通りにしろ!」
「は、はい!!」
観念したクレアはベッドの端に正座をして待っていると、床を拭き終えたリヴァイは、クレアの頭にバサッとバスタオルをかけると、丁寧に拭きだした。
「へ、兵長?!」
「右腕の力が入らないんだろ?こんな長い髪を片腕で拭くのは無理だ。今度は風邪を引くぞ……」
リヴァイはクレアの艶のある髪が傷まぬように丁寧にタオルで水分を取っていった。
「す、すいません……あ、ありがとうございます……」
男に髪など拭かれた事のないクレアは緊張で心臓が爆発しそうであった。
しかし、その繊細とも言える丁寧な扱いは、いつも自分がしている拭き方よりも何倍も優しいものだった。
その心地よさに、いつまででも触れていて欲しい気分になってしまう。
「明日からはちゃんとハンジかフレイアに頼めよ……2人とも忙しければ俺がやってやる、いいな?」
「はい…わかりました…」
艷やかなクレアの髪を、本当なら明日も明後日も自分がこうして拭いてやりたいが、さすがに今できる提案はこれが精一杯であった。
あらかた拭き終わると、バッグの中に金色の小瓶とクシが入っているのが目に入る。
小瓶のフタを取ると、そこからは何故だが久しぶりに感じるキンモクセイの香りがした。
「兵長?あっ、それは自分でできるので大丈夫です!」
そんなことまでさせるわけにはいかないと振り向くが、前を向いてろと言わんばかりに片手を頭に置かれグイッと正面を向かされてしまった。
香油を少し手に取り髪になじませると、洗髪の石鹸で少しキシキシしていた髪がみるみると艷やかになっていった。質の良い香油の効果なのだろう。
そして、なめらかになった髪をクシで梳かしてやると、キンモクセイがほのかに香る、リヴァイが好きなクレアの髪の毛に戻った。