第4章 懇願
荷物をまとめ、蹄洗場で馬装をしていると、厩舎の方から誰かが馬を連れてくる足音がした。
──カッポカッポカッポ──
誰だ?訓練兵か?
見つかったらまずい。
2人はひとまず近くの物陰に隠れて様子をうかがった。
──現れた人影はなんと、クレアだった。
愛馬をつなぐと慣れた手付きで馬装を始めた。
蹄の裏のおがくずを取り、ブラシをかけてやると、鞍をのせ腹帯を締める。
おがくずをほうきではき、ちりとりでとると愛馬の左側にたち、右腕をまわし、長い鼻を抱きしめる。
「デイジー、今日も居残り練習よろしくね…はぁ…やっぱり私みたいな訓練兵がハンジさんの班に入りたいなんて、無理な話なのかなぁ……」
デイジーと呼ばれた愛馬は首を上下に揺らすと、寄り添うようにクレアに頬ずりをした。
まるで「私がついてるから大丈夫……」とでも、言っているかのように。
「ごめんデイジー。諦めちゃ駄目だよね…!私、まだ諦めたくない。頑張らなきゃ。」
そうつぶやくと、愛馬の無口を取り、ハミを噛ませ、手綱を引きながら蹄洗場を後にした。
「クレア……今日も……って言ってた。毎日自主練習してるんだ。」
「……………」
リヴァイは黙ったまま何も答えなかった。
冬の日暮れはとても早い。
クレアが自主練習にむかうと、2人も馬装を済ませ、足速に訓練兵団を後にした。
調査兵団本部につく頃にはとっぷり日も暮れていたが、月明かりがさしこむ澄んだ夜空だったため、順調にたどり着くことができた。
帰りの道中、リヴァイはずっとクレアのことを考えていた。
対人格闘での判断力。
馬の調教、根気力。
ガスの節約やスピードを意識した技術力。
チーム全体を把握する分析力。
どれをとっても、特例に見合うものであった。
新兵入団後の壁外調査で死ぬことはないだろう。
リヴァイも、あの小柄なビスクドールのようなクレアのずば抜けた才能に、少なからず興味を持ち始めていることを、自覚していた。
「おいハンジ、エルヴィンとこに行くんだろ、報告は任せた。あの奇行種はそう簡単に死なねぇ。俺が保証すると伝えておけ。」
「え?リヴァイは?一緒にいかないの?」
」