第16章 奇行種、奮闘
…どれくらい目を瞑っていただろうか。
少しずつ意識がはっきりしてくるのを感じ、クレアはゆっくり目をあけた。
窓から射し込む日光から推測すると、朝の6時を少し過ぎたくらいだろうか…
天井のあたりをくるりと見渡すと、ここは医務室のベッドだった。確か、任された負傷兵士の治療が終わって、ハンジ達と合流したところまでは覚えているが、そこから記憶がない。
今は翌日の朝なのか、翌々日の朝なのか、この状態では知る手立てはない。
しかし、自分の左側に感じる温もりに気がつくと、そこには丸椅子に座り、ベッドに突っ伏して眠るハンジの姿があった。
「ハンジさん……」
ずっとここに居てくれたのだろうか。
メガネをかけたままスースーと眠っていたハンジだったが、クレアが名前を呼ぶと、ガバッと起き上がり、慌てた様子で顔を覗き込んできた。
「クレア…?!よかったぁ…気がついた?身体は痛む?」
……そうだ。自分は、帰還目前で巨人によって地面に叩きつけられたのだ。
クレアはゆっくり身体を起こしてみた。
記憶が無くなる前に感じた右手の麻痺のようなものは無くなっていたが、やはり右脇腹の痛みは残っていた。
「……右脇腹が痛いですが、なんとか身体は起こせそうです。ハンジさん、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした…私はいったいどれくらい眠っていたんでしょうか?」
「迷惑だなんて、逆だよ!逆!怪我してたのに負傷兵の治療なんて無茶しすぎだったんだよ!はぁ……クレアが倒れた時、私の心臓止まるかと思ったんだからね……今は翌日の朝だよ。」
「本当にすみません…でした…あっ…デ、デイジーは?デイジーの体調は大丈夫ですか?」
あれだけの冷たい大雨の中走らせたのだ。
クレアは自分の事以上にデイジーの様子も心配だった。
「昨日の夜と深夜に検温と脚の状態確認したけど、元気だったから安心して!」
「あ…ありがとうございます……」
「一応先生には、私から説明させてもらったよ。巨人に叩きつけられて右半身を強打したってね。おそらく肋骨に何本かヒビが入ってるだろうって事だったけど、他に打った場所とかある?今他に痛む所は?」
「……い、いえ…痛むのは右脇腹だけです。」
その答えを聞くと、ひとまずハンジは安堵の表情を見せた。