第16章 奇行種、奮闘
「はぁ…はぁ……これで、最後かしら?」
最後の負傷兵と思われる兵士の手当を終えたクレアは、少し息を上げながら周りを見渡した。
新たに運ばれてくる負傷兵はおらず、後は医師による重症兵士の処置が終われば、治療は落ち着きそうだ。
だが、それで仕事は終わりではない。
並べられた遺体を安置場所まで運んだり、感染症を防ぐため、血だらけになっている講堂も、清掃に消毒をしなくてはならない。
やることはまだまだ山積みだ。
さすがにこの身体で遺体を運ぶのは無理そうだ。
せめて消毒薬だけでも運んでおこうと医務室まで向かおうとするが、立ち上がったところで軽く目眩を起こしてしまう。
あれ………
心なしか寒気がする……
……びしょ濡れの兵服で治療をしていたのだから当たり前か……
……手足が重い……
……あれだけの数の巨人を討伐したのだ、当たり前だ……
右半身が痛い……痛い……右手の感覚が…ない…
きっと打ち身と疲労だ…問題ない…
なんとか自分に言い聞かせ講堂の入り口まで向かおうとすると、息を切らしながら2人の兵士が駆け込んできた。
「あーーー!!クレア!!いたいた!!」
「クレア…大丈夫か?」
「ハ、ハンジさん…モブリットさん…」
もの凄い勢いで駆けつけてきたのはハンジとモブリットであった。
2人は、少しフラついているクレアの目の焦点が若干合っていないのに気づくと、慌てて医師を呼ぼうとした。
しかし、次の瞬間、ハンジ達の顔を見て安心したのか、クレアはハンジの前で両膝をつくと、そのまま倒れ込んでしまった。
「ちょっ……クレア?!や、やだ…クレアしっかりして?!」
やっぱりクレアは巨人に叩きつけられた時に怪我をしていたんだ。
「まったく無茶をして!」
ハンジは盛大に舌打ちをした。
遠くでハンジとモブリットが呼んでる声が微かに聞こえたが、もう目を開けることは無理そうだ。
クレアの記憶はここで途絶えてしまった。
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薄日が差し込む光の感覚でクレアは意識を取り戻したが、瞼が重くて目をあけることができなかった。
状況はよく分からないが、今の自分はベッドの様な物の上で仰向けで横になっているようだ。