第16章 奇行種、奮闘
「ったくエルヴィンのやつ…」
「分隊長!この混乱の中では仕方ないです…馬の体調も心配なので先にこちらを終わらせてしまいましょう。」
「…わかった!早くクレアを休ませないと、心配だ…」
ハンジとモブリットは大急ぎで蹄洗場まで向かった。
クレアはエルヴィンと共にざわめく講堂に入ると、そこはまさに地獄絵図といっても過言ではなかった。
腕や足を失った兵士も1人や2人ではない、頭や腹から大量の血を流している者もいる。
そして、講堂の片隅には息絶えてしまったであろう兵士の遺体が並べられていた。
残念なことに、白い布一枚かけてやる余裕は今ここにはないようだ。
「クレア、応援要請にこたえてくれたトロスト区外の医師がまもなく到着するから、私は出迎えにいってくる。クレアはここで先生の手伝いをしてもらえるか?」
「は、はい!わかりました!」
クレアは敬礼をすると、すでに緊急手術に入っている医師の助手に入った。
右脇腹の痛みは増す一方だが、そんな事言っていられる状況では無い。
手の消毒と手袋をし、マスクをつけると、すぐに応援に入った。
「先生、クレアです。手術のお手伝い入ります。」
「クレア君か、無事でよかった。あらかた負傷兵のトリアージは終わらせたから、この手術が終わったら黄色と緑のグループの処置を任せてもいいかな?間もなく応援の医師も到着するだろう。」
「はい!わかりました。」
緊急手術が無事に終わる頃、応援の医師が到着した。
「クレア君、ありがとう。重症兵士はこちらで診るから後はお願いできるかい?」
「大丈夫です。」
クレアは丁寧且つ迅速に縫合を済ませると、自分が割り当てられた負傷兵の処置に向かった。
縫合などの外科的処置が必要な中症状の兵士がざっと20人。
自力で動ける軽症の兵士はざっと30人はいた。
動ける兵士の中から3人に助手をお願いすると、出血量の多い兵士から順番に処置をしていく。
父親の手術の助手をしていたクレアの縫合は神業と言っても過言ではない程に早く、正確で、丁寧だった。
怪我の具合により抗生剤を打ったり、痛み止めの麻酔を使ったりするが、その判断も的確だ。
そのスキルは、遠目から様子を見ていた医師も感心してしまう程であった。