第16章 奇行種、奮闘
「ウーラン、ウーラン、落ち着いて。一緒に帰ろう!」
クレアはズボンのポッケに忍ばせておいた小さな人参をウーランに差し出した。
ちょうど、今朝の朝食に温野菜がでていたので、クレアはデイジーにあげようとポケットに入れておいたのだ。
クレアの手に握られている物が目に入ると、ウーランは徐々に落ち着きを取り戻し近寄ってきた。
「ブルルルル……」
自分が貰えるはずだった人参を取られてしまい、デイジーが少し不機嫌に鼻を鳴らす。
「デイジーごめんね!今回は許して!」
大好きなクレアに困った様な笑顔を向けられてしまうと、さすがのデイジーも今回は譲らざるを得ず、頸を上下に振り渋々納得をした。
ウーランが人参を口に入れて近づいてきたところで手綱を握り、そのままハンジ達が待っている場所まで連れて行く。
「お待たせしました!行きましょう!」
再び3人は馬を走らせ壁まで急いだ。
旧市街地は巨人の戦闘には有利な地形ではあるが、この視界の悪さと雨音の中だと、物陰に潜む巨人に気づくことが出来ずかえって不利だ。
クレア達は急に姿を現す巨人に苦戦しながらも、討伐をしながら壁まで向かっていた。
いきなり飛び出してくる巨人には至近距離での攻撃となるため、3人とも返り血で顔も兵服も真っ赤だ。
間もなく旧市街地も抜け、トロスト区までもう少し。
3人とも気を抜くことなく馬を走らせていたが、先頭走るハンジの正面から突然2体の巨人が現れた。
「………なに?!!」
建物の影と大雨のせいで、接近に気づくことができなかった。
2体とも10メートル級はありそうだ。
「ハンジさん!!」
「分隊長!!」
ハンジは迷わずトリガーを引き自分に向かってくる巨人の腕を切り落としてから体制を整え討伐に入る。
モブリットも応戦に入った。
クレアも自分に向かってきた巨人の片腕を切り落とし、一旦体制を整えようとトリガーを引こうとしたが、視界が悪く、わずかに一瞬アンカーを射出するタイミングが遅れてしまった。
────バンッ────
運悪く片腕を切り落とされて暴れた巨人の手のひらがぶつかり、クレアは地面に叩きつけられてしまった。
「うぅっ……!!」
右脇腹に激痛が走る。