第16章 奇行種、奮闘
今日は朝から風もなく晴天だったのだ。
天候の崩れなどいったい誰が予想できたであろうか。
しかしここで天候が崩れてしまうと、陣形や信煙弾がまったく機能しなくなってしまう。
なんとか壁まで雨が降らぬことを願うしかない。
しかし、そんなハンジ班の願いも虚しく、厚くて黒い雨雲はみるみると空に広がり、日没までまだ時間のある太陽を見事に隠してしまった。
「まずいね……」
ハンジの呟きとほぼ同時にポツポツと雨粒が手綱を握る拳に落ちてきた。
クレアはマントのフードを被るが、雨足は瞬く間に強くなり、3人は大雨の中馬を走らせる事態となってしまった。地面からは馬の走るリズムと同調するように泥水が跳ね上がり、視界も1〜2メートル程が限界だ。
「分隊長!どうしましょう?一度止まりますか?」
モブリットが指示を仰いだ。
「………………」
「ヒヒーーーン!!」
「きゃああああ!」
「「クレア?!」」
ハンジが判断を考え込んでいたその時、クレアの愛馬デイジーが何かに驚き後脚で立ち上がってしまった。
さすがのクレアも悲鳴を上げてしまう。
「クレア?!どうした?!大丈夫?!」
「す、すみません!デイジーがいきなりたちあがってしまって………あっ!」
デイジーの頸を優しく撫でながら落ち着かせていると、3人の視界には巨人に襲われたであろうと思われる兵士達の残骸が広がっていた。
大雨が打ち付ける地面は血の海だ。
湿気に混じった血の匂いに一瞬むせ返りそうになるが、クレアはデイジーから降りると、冷静に残骸の遺体から流れ出る血液を触った。
「クレア?」
「ハンジさん、モブリットさん、この冷たい雨の中、まだ遺体も血液も温かいです。襲われたばかりでしょう。おそらく、巨人はまだ生きたままこの辺をうろついてると思われます!」
もう判断に迷っている時間はない。
「わかった!このままじっとしていてもしかたがない。この雨じゃエルヴィンの信煙弾も確認できない。我々だけでトロスト区を目指そう!」
「「はい!」」
「この強い雨音と視界の悪さで巨人の接近に気づきにくい!細心の注意を払え!」
「「はい!」」
ハンジ達は視界の悪い中、巨人の接近に神経を研ぎ澄ませながら全速力で壁まで急いだ。