第14章 奇行種の妙案
翌朝、クレアは太陽がのぼり始めたあたりの明るさで目が覚めたことに安心すると、身支度を済ませいつもの様にリヴァイの執務室にむかった。
──カチャ──
掃除が一通り終わり、ヤカンに火をつけたタイミングでリヴァイは執務室にやってきた。
いつも通りの時間だ。
調査兵団に入団して、もう半年がたとうとしている。
クレアの中では、この掃除も、紅茶を淹れて執務を手伝うのも、大切な生活の一部になっていた。
班も違ければ、兵士としての階級も違う。
この朝の一時は、そんなリヴァイの側にいれる貴重な時間だ。この執務室の掃除は、リヴァイの気の済むまでという期限で命令されたものであり、入団当時はその横暴さに怒りさえ覚えたが、今となってはもう期限などどうでも良くなっている自分がいる。
むしろ、今更期限なんて決めないで欲しいと思ってしまう程だ。
それに、ここ最近で変わったことが2つ程ある。
一つは、クレアが紅茶を淹れて、机まで持っていくが、書類に簡単に目を通すと、すぐにリヴァイは書類と紅茶をソファまで持ってきて、わざわざクレアの隣に座り、仕事をし始めるのだ。
しかもその距離も若干近い。
いつも理由を聞こうとするが、「文句はねぇな」と言わんばかりのオーラを出されたり、他愛もない会話で話しかけられてしまったりと、今に至るまでその理由はわからない。
そして大きく変わったことは、リヴァイがあまりクレアのことを「奇行種」と呼ばなくなったことだ。
ハンジの前だったり、たまにおかしなことをしたりする時には奇行種と呼ばれるが、気づけば名前で呼ばれる事が多くなっていた。
奇行種と呼ばれる事に慣れてしまっていたせいか、名前で呼ばれると、ただ呼ばれているだけなのに、いちいち胸が高鳴ってしまい、とても困る。
それでもやはり、好きな人から名前で呼ばれるのは嬉しい。今日も張り切りながら仕事を手伝った。
「クレア、今日はやけに機嫌が良さそうだな。何かいいことでもあったのか?」
リヴァイは書類に目を通しながらぶっきらぼうに聞いてきた。
「え?私そんなに機嫌良さそうでしたか?いつも通りにしていたと思うんですが……」
「自分で気づかないとはおめでたいヤツだな。アホ面全開だぞ。」
リヴァイは意地悪に笑ってみせた。