第4章 懇願
クレアは誰とも話すことなく退屈そうに、訓練開始の合図を待っていた。
ピィーーーー!
キース教官の笛の音で対人格闘の訓練が始まる。
対人格闘は1回3分。
目、急所以外の攻撃であれば基本なんでもオッケーだ。
3分に1回笛が鳴り、次々と相手を変えていくやり方だ。
クレアは女子相手には割と優勢だった。力技や蹴り技、投げ技など、存分に使い、その姿は美しく感じるほどだった。
しかし男子になると、なかなか難しくやや劣勢になってしまう。
「あぁぁ…!やっぱり男子相手はきついかな?少し押されぎみだね。」
「当たり前だ、あの体格差だ。でもよく見てみろハンジ。ただやられてるだけじゃねぇみてぇだぞ。」
「え?!」
「体格差があるから劣勢ではあるが、まだ負けていない。相手の動きをよく見て、かわしながら隙をうかがってるんだ。さっきは相手の力を使ってうまくいなしていた。…柔良く剛を制すだ。ただ突っ込むだけのバカではなさそうだな…」
「相手の体格や力量を見極めて戦法を変えてるわけだね。なかなかやるねぇ。」
「あぁ…悪くねぇ。」
…あれ?リヴァイちょっと楽しんでるのかな?
ぶっきらぼうに答えてはいるが、ハンジはリヴァイの口角がかすかに上がっているのを見逃さなかった。
3分×30回。時間にして90分の持久戦が終わると訓練兵は息を上げて座り込んだ。
20分程の休憩で息を整えると次は馬術訓練だ。
厩舎まで走り、各それぞれの愛馬を蹄洗場につなぐと、すばやく馬装をすませ馬術訓練を行う広場まで連れて行く。
今日の馬術は10名ずつ横に並び、停止した状態からの駆け足発進、そのまま駆け足でコース上の障害物を飛越させ、順位を競うというメニューだ。
障害物の高さや種類もその日ごとに違うため、難易度は高いが、停止した状態からの駆け足発進も意外に難しい。馬が集中しきれていなければ、スタート直後から遅れをとってしまう。
4組目まで終わったあと、5組目でクレアがスタート地点に並んだ。
この時点では特に目立つことはなかった。
10名全員がスタート位置につき、発進の号令がでる数秒前、クレアは愛馬の首元を愛撫し何か話しかる。
そして手綱を短く持ち直し、両脚で軽く合図をだした。