第12章 奇行種の休日
今なら渡せるだろうか……
胸の中にひっそりと隠れてその時を待っている物が今がチャンスだと騒ぎ出す。
誰が考えてもこの話の流れは、お礼のハンカチを渡す絶好の機会だろう。
時には勢いも必要だ。
「兵長!あ、あの…!」
クレアは内ポケットから小さな包を取り出すと、両手で持ってリヴァイに突き出した。
「…いきなりなんだ。」
自分に何かを差し出してるが、香油を買いに行った話からここまでの流れがわからず、素直に受け取ることができない。
「えーと、これは、お礼です……」
「??礼だと?なんのだ。」
リヴァイにはまったく思い当たることがなかった。
「壁外調査前に……ザズとリゲルに襲われた時に、兵長のハンカチを汚してしまいました。あの時は、本当に申し訳ありませんでした。あの…安物のハンカチなので、到底代わりにはなりませんが…」
「……そんなものを、わざわざ買いに行ってたのか。」
「は、はい……」
確かにあの時に使ったハンカチはすぐに処分をした。
だが、潔癖症のリヴァイはかえのハンカチなど掃いて捨てるほど持っている。
まさか、クレアからこんなサプライズがあるなど考えてもみなかった。
「俺が受け取ってもいいのか?」
「はい!兵長にお礼がしたくて買ったものなので、是非受け取って頂きたいです!」
「たとえハンカチ1枚でも新兵の給料じゃ高い買い物だったろ。気を遣わせてしまったな。」
優しく受け取り包をあけると、中から出てきた白のハンカチには金色の糸で自由の翼の紋章が描かれている。
「こんな物が売っていたのか?」
リヴァイは紋章をみて少し驚く。
「あ、それは…恥ずかしながら私が刺繍をしました…安物ですが、少しでも見栄え良くしたくて……あ、あの…お気に召さなかったでしょうか?」
クレアの瞳が不安そうに揺れる。
「いや、そんなことはねぇよ。お前にこんな特技があったなんてと驚いただけだ。気に入った。さっそく使わせてもらう。」
その言葉を聞いて安堵したのか、クレアの表情がパッと明るくなったのをリヴァイは見逃さなかった。
「よかったです!ありがとうございます!」
自分のためにこんなことをされては……
可愛いと思わない方がどうかしている…
リヴァイはクレアを抱きしめたくなる衝動を抑えるのに必死だった。