第12章 奇行種の休日
今日も賑わいを見せている商店街をクレアはまっすぐに抜けていく。
少し人通りが少なくなると見えてくるのが香油屋だ。
窓からは相変わらずキレイなガラス細工の小瓶が並べられているのが見える。
──カランコローン──
ここにくるのは3ヶ月ぶりだ。店の中はふんわりといい香りに包まれている。
「いらっしゃーい。あれ?誰かと思ったら春に来てくれた調査兵の嬢ちゃんじゃないか?」
店の主人は笑顔で出迎えてくれた。
嬢ちゃん……クレアはこうみえても18だ。お嬢ちゃんという年ではないが、なにせこの容姿。
クレアは苦笑いを浮かべたが、あえて弁解はしなかった。
「こんにちは。頂いていた香油がもうなくなるので買いに来ました。とてもよく香るので気に入ってます。」
「ありがとうね。またきてくれて嬉しいわ。一昨日壁外調査だったでしょ?あなたが無事かどうか主人も私も心配してたのよ。」
夫婦そろって自分のことを気にかけてくれていたとは……クレアは嬉しさに胸を熱くした。
「ありがとうございます…まだまだ未熟者ですが、兵士として命の限り戦います。ですが、ここの香油はとても気に入ってるので、生きてる間は通わせてください……」
「私達には子供がいないから…なんだか我が子の様に心配してしまったわ。買い物じゃなくても、時々顔を見せてね。お茶でもだすからね。」
店主の妻は少し涙目になると、優しく笑いながら香油の準備をしてくれた。
優しい笑顔が少し母の笑顔と重なったような気がした。
「はい、おまたせ。ところで、お嬢さんのお名前はなんていうのかしら?」
「ありがとうございます。私はクレア・トートといいます。」
「クレアね。私はマーサ・ビスマルク、主人はグレンよ、宜しくね。」
「ところで。嬢ちゃん!恋はしてるかい?」
「え?えぇ?…恋ですか?」
「そう!恋だよ!恋!調査兵といっても恋愛くらいは自由だろ?嬢ちゃん可愛いしな、いい男はいないのかい?」
店主グレンはガハハと笑いながらズカズカと遠慮なく聞いてくる。
いきなりの質問にタジタジになってしまったが、親切で優しい店主夫婦に嘘はつきたくない。
「えーと、恋人ではありませんが、好きな人はいます……」
クレアは照れながら答えた。