第81章 番外編・厳しい現実と深まる友情
「大丈夫大丈夫!だいじょーぶ!!ランスロット見て見て〜!ママ、座ってないよ〜!!」
イスに座る事は諦めて、中腰姿勢からすっくと立ち上がると、ランスロットは何事もなかったかのように再び静かに眠り直した。
「ひぃ…なんで生まれたばかりの赤ちゃんが座ってるとか立ってるとかわかるのー?!」
赤子の世話スキルゼロのハンジにできる事は、とにかくクレアが戻るまで泣かせない事だ。
ここで泣かせてしまったらせっかく休んでいるタリアが起きてしまうかもしれない。
ハンジはとにかく立って抱っこし続けるしかなかった。
「タリア…毎日こんな風にずっと抱っこしてたんだ…寒いのに…眠いのに…疲れているのに…そりゃ、こんな毎日が続いたら誰かに愚痴りたくもなるよね…誰かに側にいて欲しくもなるよね…タリア、気づいてやれなくてごめん…!!」
腕の中にいるランスロットは勿論可愛い。
モブリットによく似ていて、ハンジの胸を温かくしてくれる。
だが、“可愛い”や“愛しい”という感情だけで何でもこなせてしまえる程育児は甘くない。
ハンジは、たった数十分の手伝いでそう痛感させられたようだ。
「……クレア、早く帰ってきて………」
小さいのにどこかズシリと感じる命の重みを抱きかかえながら、ハンジはクレアの帰りを待った。
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1時間もすると、クレアは食材がいっぱい入ったカゴを膝の上に乗せて帰ってきた。
「あぁ…クレア、おかえり…」
「ハンジさん、お待たせしました!!大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫…ちょっと心細くなっちゃっただけだから…」