第81章 番外編・厳しい現実と深まる友情
大きな泣き声にハンジは冷静さを失いかけたが、勢いに任せてランスロットを自身の腕で抱き上げた。
「ほ…ほ、ほ、ほ〜ら!ママだよ〜…!!」
「…………」
震えて裏返った声であやすハンジ。
普通に“よしよし”とあやせばいいものだが…
なぜ“ママだよ〜”なのだ。
クレアは突っ込みたい気持ちでいっぱいだったが、ヒクつく顔で懸命に笑顔を作り、不気味で軽快なステップであやしているハンジを見たら何も言えなくなってしまった。
しかし、ハンジを母親だと思い込んだのか、ランスロットはピタリと泣き止んだ。
「…ハンジさん、すごいです!泣き止みましたね!」
「ハ、ハハハ…ホントだ、泣き止んだ!タリアと顔そっくりだから、騙されてくれたのかな?」
生後間もないランスロットの目はまだあまりよく見えないはず。
しかし、モブリットとよく似た目は、しっかりとハンジを見つめると、安心したように眠ってしまった。
「ひとまず泣き止んでくれてよかったですね…そうだ、ハンジさん…」
「ん??」
「あの、さっきお湯を沸かしてる時に気づいたんですけど…タリアさん、もしかしてまともに食事されてないのではないですか?」
「えぇ…?!」
「キッチン周りや棚の中を見たのですが…食べ物が何もないんです。」
その言葉でハッとなるハンジ。
周りをグルリと見渡すが、クレアの言った通り、食べ物が何もない。
唯一あったのが、テーブルの上のカゴに無造作に入れられた、かたそうなパンのみ。
とてもじゃないが、これでは産後の肥立ちは悪くなる一方だ。