第80章 最終章・もう1つの花言葉
「…………」
シンクの縁に片手を置いて、バランスを取りながら器用に紅茶の準備をするクレア。
こんな光景いつぶりだろうか。
リヴァイはそんなクレアの後ろ姿を見ながら渡された包をあけると、中にはキレイに形の整ったクッキーが並んでいる。
ほんのりと甘い香りと共に濃厚な紅茶と、シナモンの風味が心地良くリヴァイの鼻を刺激した。
これならあまり甘い物を好まないリヴァイでも、美味しく食べられそうだ。
しかし、健気に紅茶の準備をしているクレアを見ていたら、なんだかよからぬ欲望が疼きだしてしまったリヴァイ。
まぁ、無理もないだろう。
お互いに朝から晩まで忙しい日々だ。
リヴァイは兵士として、クレアは医師として別々の戦場で戦っている。
毎朝クレアが掃除をして仕事の手伝いをしてくれていた頃がやけに懐かしく感じてしまう程にだ。
こうして2人きりになるのもいつぶりだろうか…
気付けばリヴァイはクレアの背後に立っていた。
蜂蜜色に輝く髪の毛は尻の辺りまで長いのに、毛先まで艶々だ。
茶葉の量を計るのにクレアは無意識に髪の毛を右の耳にかけた。
サラリと動いた髪からはいつだってリヴァイの心を揺さぶるキンモクセイがフワリと香る。
ここはリヴァイの執務室。
目の前には愛しいクレア。
もはや何も起こらないという方がおかしいだろう。
「…!?兵長…??……あっ!!」
気配に気付いたクレアはそっと顔を後ろに向けたが、次の瞬間には背後からすっぽりとリヴァイの腕によって身体を包まれてしまっていた。