第79章 海を見に行こう!
「……………」
沖の方を見つめたままじっと黙ってしまったクレアを見てリヴァイは想う。
海がどんなモノか、アルミンから聞いてはいたが、実際に見た海は、話を聞いて想像していたモノとは雲泥の差だった。
風もないのに寄せては返す規則的な波。
クレアの瞳の色とよく似た深い深い青。
大自然の賜物である上に、どことなく神々しささえ感じるこの広大な海。
それは男のリヴァイでさえ“美しい”と素直に思えてしまうほど神秘的な景色だった。
この水には大量の塩が含まれている。
これだけ広ければ、魚の群れだってどこかしこで泳いでいるだろう。
巨人さえいなければ、そして悪魔の末裔と迫害される事さえなければ、我々はこの自然豊かな海の恩恵にあやかる事だって、広大な土地で自由に暮らすことだってできたのだ。
何もあんな狭い壁の中でドブのような空気を吸って不自由な暮らしなんてする必要などなかったのだ。
狭い壁内で腐りきった王政の人間と殺し合い、手を汚す事の絶望を味わった104期達。
どこまでも自分の中に滾る好奇心のままに暴走するハンジがこのところ見せていた疲労感うかがえる表情。
そんな104期達やハンジが、今心の底から笑っている。
そして、志半ばで兵士を引退する事になってしまったクレアも、新しく医師として働く道を手に入れ美しい海をその目に焼き付けている。
どうかここは、“楽園送り”にされる場所でも、“敵の侵入経路”にもしたくない。
人々がこの大自然の恩恵を受け、感謝をし、その神秘的な美しさの前で心癒される…そんな場所であり続けてほしい。