第4章 懇願
諦めきれなかったクレアの説得攻撃はとてつもなくしつこかった。
朝一
昼休み
訓練後
消灯前
1日1回は必ず押しかけた。
だが対応はいつも決まって門前払いかつまみ出されるかのどちらかだった。
そんな中、クレアは自分では手に負えないイライラに苦しんでいた。
無理もない、幼少期からどこか冷めた性格だったクレアは親に何かをねだったり、駄々をこねたことなどなかったのだ。
普通の子供が成長とともに自然にみにつける、欲しいものを我慢するスキルなど、今のクレアには備わってはいない。
食堂でいきなり「もぅぅぅ!!」と頭を抱えながら叫んだり
対人格闘の訓練では「ちくしょょょょ!!」と叫びながらつかみかかり
眠りながらも「きぃぃぃぃぃ!」とうなりだす始末。
そう、まさにクレアは今、人生で初めて駄々をこねている状態だった。
もちろんクレアには相談できる友達もいないため、直談判で直球勝負する以外どうにもできなかった。
──クレアのおしかけ直談判は冬になっても続いていた──
冷たい風が身にしみる12月、キース教官の執務室で、部屋の主は、頭を悩ませていた。
クレアの処遇についてだ。
本来ならば規律を乱す言動や行動は即、退団命令だ。
たがクレアはあのハンジの講義があるまではいたって真面目な、真面目すぎる訓練兵だったのだ。
特に立体機動装置の腕前は群を抜いていて座学も申し分なかったため、てっきり憲兵団に進むものだと思っていたのだ。
退団命令を出すのは簡単だがクレアはなかなかの逸材だ。
調査兵団からしてみれば、みすみす手放したくないだろう。
「はぁ………」
キース教官は机の引き出しをあけ、便箋と封筒を取り出すと、溜息をつきながら手紙を一筆したためた。