第76章 慟哭と、その向こう側に見えたモノ
少したつと、グッタリしながらタリアは顔を上げた。
「大丈夫ですか?これ…使って下さい…」
「あ、大丈夫です…ここに、手拭き用のタオルがあるので…」
クレアはポケットからハンカチを出したのだが…
汚してはいけないと遠慮したのだろう。
タリアは洗面台に置いてあるタオルに手を伸ばすと、サッと口元を拭いて少しフラつきながらもイスまで戻り腰をおろした。
そして、手の甲で涙を拭いながら、ポツリポツリと話しだす。
「モブリットのバカ…本当にバカバカ…“他の誰かを好きになっても構わない”ですって?…“誰かを愛して愛されて…幸せになって欲しい”ですって?もう…言われなくったって…ちゃんといるわよ!!」
「「えぇ?!」」
さも当たり前かのように堂々ととんでも発言をしてくれたタリアに、ハンジもクレアも大きな声を上げて驚きだ。
様子から察するに、モブリットへ寄せていた想いは真剣に感じたが、こうも潔く他の男へ切り替えられるモノなのだろうか?
「もう…本当に何なのよ!!」
拭っても拭ってもタリアの目からはポロポロと涙が溢れて止まらない。
タリアは怒ったように何度もゴシゴシと目元を擦った。
「タリアさん…?それって…どういう…」
耐えかねたハンジがどういう事なのか問いかけると、返ってきた答えに再び2人は驚愕する。
「新しく好きになった人ならもういるって言ってるのよ…!!ここに…ここにいるのよ…!!」
するとタリアは自身の下腹部にそっと両手を当てて、愛おしそうに撫でた。
「「え…?えぇぇぇ?!!」」
「こうなっても構わないと思ったのは私よ。後悔はしていないわ…でも…どうしてよ…どうしてモブリットは、こんなにも…優しいのよ…!!!」