第76章 慟哭と、その向こう側に見えたモノ
皮肉な事にモブリットの優しさが、タリアの気遣いが、お互いをすれ違いにさせてしまっていた。
「モブリットの…バカァ…どうして…どうしてよぉ…うぁぁ……」
ハンジとクレアの前で泣き崩れるタリア。
どんな言葉をかけてやればよいのかわからず、2人とも石のように固まってしまった。
死に別れて初めて相手の気持ちを知るだなんて…
とてもじゃないが“辛い”だなんて言葉では言い表せないだろう。
「あぁ……あぁ…モブリット……」
悲痛な叫びを聞きながらただただ見守る事しかできずにいたが、泣いているタリアの顔色がだんだんと青白くなっていくのに気付いたクレア。
「あ、あの…大丈夫ですか?」
「あぁ…うっ……ちょ、ちょっと…ごめんなさい…!!」
「タリアさん?!」
クレアが心配になり顔を覗き込むと、タリアは突然ハンジの手を振り払って立ち上がり、奥の個室へと駆け込んでしまった。
「ど、どうしたのでしょう…」
「さ、さぁ……」
駆け込んで行った先はトイレだろうか。
奥から唸るような苦しげな声が聞こえてくる。
「タリアさん?!大丈夫ですか?!」
苦しそうな声を聞き、クレアとハンジが慌てて奥まで行くと、タリアは膝をついてトイレにうずくまっていた。
「み、見ない…で…」
「そ、そんなわけにはいきません!!タリアさん、体調悪かったんですか?」
吐いてる所を見られたくなかったのか、こっちに来ないでと手を振るが具合の悪い人間を放っておくなんてできない。
クレアは苦しそうにえずくタリアの背中をさすってやりながら、吐気が落ち着くのを待った。