第76章 慟哭と、その向こう側に見えたモノ
そしてこれは俺の勝手な願望だったんだが、できる事なら、娼婦という仕事は辞めさせて…
小さな家でいいから、君と一緒に暮らす事ができたらとも…夢に描いていた。
それもこれも、俺が死んでしまったら何にも意味をなさないけど、でも、それくらいに君の事を真剣に想っていたという事はわかって欲しい。
叶わぬ恋の相手と重ねて散々好き勝手してたくせにと君は怒るかな?
そうだとしたら返す言葉もないな。
本当に…すまない…
でも、これだけは信じて欲しい。
俺は、タリアを、他の誰でもない1人の女性として好きになった事を。
そんなタリアと一緒に、この狭い壁内でも幸せを感じて生きていきたいと、本気で思っていた事を。
もう俺はこの世にはいないから、君の気持ちを聞くことは残念だができない。
だけど、俺は心から君の幸せを願っている。
他の誰かを好きになっても構わない。
生きていたら絶対にそんな事は思わなかったが…死んでしまった今は素直にそう思える。
誰かを愛して愛されて…幸せになって欲しい。
だから、1つだけ…死んだ俺にだからできる事を…君にしてあげたいと思う。
一緒に同封した包の中には、使う事のなかった給金の全てが入ってる。
もし君が夜の仕事から離れて独立したいと思っていたら、その足しにして欲しい。
この金で、君の未来の選択肢が1つでも増えるのなら、どうか遠慮なく使って欲しいと思っている。
君は自分の事を“年増の娼婦”などと言っていたが…
そんな事はない。
君は十分すぎる程に美しくて、きれいだ。
そんな君の未来には、沢山の可能性があると俺は信じている。
こんな事しかできなくて本当にすまない。