第76章 慟哭と、その向こう側に見えたモノ
タリアの話を聞く限り、モブリットはだいぶ前からこの娼館に通っていたようだ。
そんな素振りなど一切見せなかったため、ハンジもクレアも動揺を隠せなかった。
「モブリットは、あなたという想い人がいながらも、私を大切に扱ってくれました。人生の半分以上を娼婦として生きてきた私にとって、モブリットは誠実すぎるほどに誠実で…優しくて…気付いたら…心惹かれてしまっていたんです…本当に…娼婦がお客様を好きになるなんて…とんでもない事ですよね…」
「タリアさん…」
ここまで聞くとハンジは、モブリットとタリアが互いに想い合っていながらも、その想いを打ち明ける事のないまま別れてしまった事に気付く。
「そんなモブリットが、ウォール・マリア奪還作戦の少し前に私に会いに来てくれた時…ある約束をしてくれたんです。」
「約束……?」
「無事に帰還できたらすぐに会いに行くから、秋に満開になる向日葵畑を見に行こうって…向日葵は、私の好きな花なんです…ずっと前に話したっきりだったのに…モブリットは覚えていてくれて…もう私はどうしていいのかわからないくらい舞い上がっていたんだと思います。でも…モブリットは調査兵団が帰還してから1日たっても2日たって3日たっても…会いに来る事はなかった。だから…もうこの世にはいないのだと悟りましたが…まさかあなたが知らせに来てくれるとは…思ってなかったので…正直驚いてます。モブリットからは本当にそっくりだと聞いていましたが…こんなにそっくりだとは思わなくて…」
「私はモブリットが外でどんな女性と交流があったかなんて何も知らなかったから…だいぶ…というか相当驚いている…」