第76章 慟哭と、その向こう側に見えたモノ
「…………」
その件について話をしに来たのだが、モブリットの手紙には一方的な想い人と書いてあった。
その相手が娼婦なら、モブリットは客の1人ということで、一方的な想いを寄せていたという話はなんとなくだが想像ができる。
だが今目の前にいる女は、この質問の答えはどうか否であって欲しいと、ハンジはそう心の中で叫んでいるように見えた。
ただの客であったモブリットに、こんな表情などするものだろうか?
細かい事はよくわからなかったが、このまま疑問に思っていても話が進まない。
ハンジは簡潔に説明をした。
「モブリットは…1ヶ月前に行われたウォール・マリア奪還作戦で、死んだ。私と…彼女を庇って…あっ、紹介が遅れたね…彼女の名前はクレア。モブリットと同じく私の班の班員だったが、足を負傷して兵士は引退になったんだ。そして…今日、ずっとできないでいたモブリットの部屋の遺品整理をしていたら、あなた宛の手紙がある事がわかりここに来て、今に至る…というわけなんだが……その、あなたとモブリットは……」
「…そう…でしたか…モブリットは…その…懇意にしてくれたお客様でした。」
「…………」
「ハンジさん…モブリットに、叶わぬ想い人がいた事は…ご存知でしたか?」
「そ、それは……知って…いた……」
こんなに瓜二つの人物を前に…
そんな事、聞かなくてもわかるだろうと言いたかったが、ハンジは気不味そうにしながらも素直に答える。
「やはり、ご存知だったんですね…出会いは本当に偶然でした。叶わぬ想いで押し潰されそうになっていたモブリットと酒場で出会ったのがきっかけです。私にそっくりの想い人がいると…初めて会った時に打ち明けてくれたんです。その日から、回数は多くないですが、モブリットは古株の私を指名しに通ってくれるようになったんです。」