第76章 慟哭と、その向こう側に見えたモノ
「よし、じゃあ行こう!!って…クレアはまだ部屋着だったね?私玄関で待ってるから着替えておいで。」
「あっ……」
クレアは医務室から直接ハンジの執務室へ行ったためまだ部屋着だった。
さすがにこのまま外に出るのは恥ずかしい。
「すみません…すぐに着替えてきますね!!」
クレアは着替えるために一旦ハンジとは別行動になった。
「あ、そういえば……」
秋用の長袖のワンピースを着て髪を梳かすと、ある事に気が付く。
いつも愛用している香油がもうなくなりそうだったのだ。
それと、もう1つ…
壁外調査の時に使っていた固形の香油がもう空っぽだ。
確か、ウォール・マリア奪還作戦の出立前に使い切ったのが最後で、生きて帰還後できたらまた作ってもらおうと思っていた事を思い出す。
だがなんの偶然か、クレアはもう兵士ではなくなった。
この香油はもう使う事はないだろう。
「なんだか、偶然にしては…偶然すぎるような……」
この香油はリヴァイと自分を繋げてくれただけでなく、命をも救ってもらった。
そして、今回は自分が兵士として働くのが最後だったのだと、予言をしてくれていたみたいだ。
単なる偶然かもしれないが、この香油には不思議な力が宿っているように感じたクレア。
空になった小さな軟膏瓶は、捨てずに大切にとっておこうと、そのまましずかに引き出しをしめた。
「いつもの香油は帰りに寄れたら買いに行こう…」
クレアは身嗜みを整えて、いつも使っている香油の瓶を小さなショルダーバッグに入れると、ハンジの待っている玄関へと急いだ。