第76章 慟哭と、その向こう側に見えたモノ
すると、その中にはキレイに洗濯された洗い替えの兵服が几帳面に畳んで入っており、“返却”というメモ紙が一緒に入っていた。
「ハンジさん、これって……」
「あぁ…きっと、モブリットは身辺整理をしてからウォール・マリア奪還作戦に参加したんだろう…もし、自分が死んでも誰にも迷惑かけないように……」
「そ、そんな…そんな事って…」
クレアは信じられなかったが、実際壁外調査の前には必ず身辺整理をしてから出立するという几帳面な兵士は少数だがいる。
モブリットが毎回こんな事をしていたのか、それとも今回だけしたのかどちらかはわからないが、身辺整理をしていたのは確かだ。
この部屋は、ベッドに置かれた木箱さえ片付けてしまえばすぐに使える程キレイに掃除されてあったのだ。
「これじゃあ、遺品整理どころか、掃除もしなくていいね…なんか拍子抜けしちゃったよ…」
「そ、そうですね…あと、右側の木箱には何が入っているのでしょうか…」
木箱は3つ並んでいる。
右の木箱には何が入っているのだろうか。
「そうだ、まだ見ていなかった。」
ハンジが右の木箱を覗くと一瞬空に見えたが、底の方に何やら封書のような物が2通、置かれていた。
「何だろう…手紙か…?」
1通はハンジ宛だが、もう1通には宛名が書かれていない上に、なんだか分厚くて小包のようだ。
ひとまずハンジは自分宛に書かれた手紙を手に取り封を切った。
ー敬愛するハンジ分隊長へー
そんな書き出しから始まっていたモブリットの手紙をハンジはクレアに聞こえるように声に出して読んでいった。