第75章 導きと再会
実のところ、クレアはだいぶ前だがここに来た事があった。
フレイアもリリアンもペトラも…親しかった兵士達は皆遺体を持ち帰ることは叶わなかった。
しかし唯一アンドレだけは帰還後に死亡をし、遺族からは兵団で埋葬をしてほしいという希望があった。そのためクレアはその当時、手を合わせにここまで来ていたのだ。
だが、ここに来たのはその1度きり。
久々に訪れた集合墓地。
エルヴィンはその中で1番目立つ場所に墓石が建てられていた。
「ここだ……」
「はい……」
そこには確かに“エルヴィン・スミス”と彫られている。
エルヴィンが死んだなんて、実感がわかなかったが、こうして墓石に名前が彫られているのを見ると、本当にこの世を去ってしまったんだなと…締めつけられるように胸が痛くなる。
「……………」
クレアは花束を供えるとそっと手を合わせた。
いつも爽やかな笑顔で接してくれたエルヴィン。
内地に行くと、必ず美味しい焼き菓子を買ってきてくれた。
一緒に紅茶を飲んだり、仕事を手伝わせてもらった事もある。
そして…リヴァイとの恋の相談にのってもらったこともあった。
あんなに強くて、逞しくて、そして誰をも惹きつける力強い統率力を持ったエルヴィン。
もうあの爽やかな笑顔に会うことができないのかと思うと、自然と涙が頬を伝ってしまうが、自分はエルヴィンの安らかな眠りを願うために来たのだ。
部屋着の袖で涙を拭うと、もう1度手を合わせ直して願う。
安らかな眠りと、来世は巨人のいない世界に生まれ変わり…どうか幸せに生きて欲しいと…
クレアは心からそう強く願った。