第72章 “その時”がきたから…Side シェリル
「シェリル……」
私の名前を呼んだエルヴィンは、少し困った様な顔をしていた。
あんなに悪魔の形相で吠えてたくせに…
なによそのしみったれた顔は…
「すまないシェリル…私はもう…これまでだ…その、なんて言ったらいいのか…本当にすまない…」
はぁ…
思わずため息がこぼれてしまった。
あんだけ新兵の前で大口叩いといて、私の前ではそんな顔をするなんて、意気地のない男ね!!
あなたがそんな男だとは思わなかったわ!
私はエルヴィンの胸を鼻でドンッとひとつきしてやった。
「ハハ…こんな弱気な男は嫌いか?」
えぇ…大嫌いよ。
ブルンと鼻を鳴らして前掻きをしてみせるとエルヴィンは私の頸を撫でてこう言った。
「まったく…シェリルには敵わないな…どうか最後まで、宜しく頼むよ……」
私はもうとっくに覚悟を済ませてるんだからそんな顔しないで…
野望を捨てて死ぬ事を選んだあなたを1人で逝かせはしないわ。
最後まで一緒にいてあげる。
だって私は勇敢に戦うあなたが大好きだったから…
言っとくけどマリーより、クレアより、私はあなたの事を想っているつもりよ。
あなたには私の気持ちなんて、わからないでしょうけどね…
するとエルヴィンは私の額にそっとキスを落とした。
「今までこんな私の側にいてくれてありがとう…シェリル、心から愛しているよ…」
……………。
ふ…ふん………。
何よ……。
最後にご機嫌を取ろうったって…私は騙されないんだからね……。
「本当に…感謝している…」
そう言ったエルヴィンの目は、涙で潤んでいるように見えた。