第70章 前夜・交わる想い
「あ………」
耳に飛び込んできた金属音は首からかけていた部屋のカギだった。
1つは自分の部屋の…
1つはリヴァイの執務室の…
そしてもう1つは……
「兵長……」
いつも肌見離さず首からかけていた3つのカギ。
まだ使った事のないカギがある。
それは、リヴァイの自室の部屋のカギ。
このカギはフレイアが死んで、1人部屋になってしまった時に、クレアの心の傷を気遣ってリヴァイが渡した物だ。
まだ1回も使った事がない。
「…………」
あの時リヴァイは…
ー「夜、1人で眠れない時があったらいつでも俺の部屋に来い。何時だって構わない。」ー
と言っていた。
これは、今使っても…いいのだろうか…
ムクリと起き上がりベッドの上にペタンと座りながらクレアは手に取ったリヴァイの自室のカギを見つめながら考える。
眠れない…
明日の事をアレコレと考えてしまって余計に眠れない。
もう何も考えたくない。
今夜は、どうしようもないほどに、リヴァイの温もりが恋しい…
クレアはポロポロとこぼれた涙を部屋着の袖で拭うと、ベッドからおりて自室を出た。
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真っ暗で長い廊下を、ショートブーツの踵が響かないように慎重に歩くクレア。
幹部棟には、何も考えず小走りをしてしまえば割とすぐに到着してしまう。
だが、誰にも見つかりたくなかったクレアは、抜き足差し足忍び足と全神経を足元に集中させながらゆっくりと歩いていた。
そしてやっとの事でたどり着いたリヴァイの自室前。
クレアは音が鳴らない様に慎重にカギを取り出しドアノブにさしこむ。