第70章 前夜・交わる想い
外に出るタイミングを失い、結局最後まで立ち聞きをしてしまった2人。
「……兵長、海って…知ってましたか?」
「いや…そういうお前は知っていたのか?」
「あ、いえ…知りませんでした。大きな塩の湖…商人が一生かけても取り尽くせない…それにそこにしか住めない魚がいるって言ってましたね?そんな所に住んでる魚、きっとしょっぱくて…食べられないですよね?」
「ハッ、そうだな…」
クレアは魚が塩漬けになって泳いでるのを想像した様だ。
「でも…私も見に行ってみたいです。…海。」
「不可能ではないはずだ。作戦に成功すればな。」
「…そうですね。」
暗がりに慣れた目でクレアを見ると“それが先でしたね”と言いたげな目で、少し照れくさそうに笑っている。
柔らかく微笑むその姿は、春の陽だまりのように明るい。
ずっとずっと…この笑顔を見ていたいが、明日の日没には共にシガンシナ区目指して出発だ。
誰がどの様な邪魔をしてくるかわからない。
そんな場所に行くのだ。
今日は早く休ませなければ。
「クレア、この後の予定は…?」
「あ、えっと…もうお風呂に入って寝るだけです。」
「そうか…部屋まで送る…」
「は、はい……!!」
リヴァイはクレアの手を取ると、兵舎に向かって歩き出した。
兵団の敷地内で手を繋いで歩いてるところを誰かに見られでもしたらと、内心ヒヤヒヤしていたクレアだったが、意外にも誰にも会わずに自分の部屋の前へとたどり着いてしまった。
「兵長…あの、ありがとうございました…」
「明日の集合は午後からだが、夜通し足場の悪い道を歩くんだ。風呂に入ったらすぐに寝ろよ…」