第70章 前夜・交わる想い
「戻すんだよ…でも…もう…全部は返ってこねぇ…だから、ツケを払ってもらわねぇとな。」
「……そう…ね。」
ミカサが寂しげな返事をすると、3人はしばし無言になった。
しかし、少し間をおいてアルミンが何か閃いたように話しだす。
「元に戻せないモノもあるけど…でも、それだけじゃない…海だ、商人が一生かけても取り尽くせない程の巨大な塩の湖がある。壁の外にあるのは巨人だけじゃないよ!炎の水、氷の大地、砂の雪原…それを見に行くために調査兵団に入ったんだから…」
「あ…あぁ…そう…だったな…」
エレンはアルミンの話を信じていないわけではなかったが、あまりにも果てしなく先の事のように感じてしまい、つい力の無い返事をしてしまった。
しかし、アルミンは続ける。
「だから!まずは海を見に行こうよ!!地平線まで全て塩水!!そこにしか住めない魚もいるんだ!!エレンはまだ疑っているんだろ?!絶対あるんだから!見てろよ!」
「しょうがねぇ……」
アルミンが子供の頃から話していた海の話。
なんの根拠もないが、アルミンがあると言うのならある気がする。
絶対にあると、絶対に見に行くとアルミンから力強く言われれば自然と見に行きたいと思ってしまうから不思議だ。
「そりゃ実際見るしかねぇな!」
「約束だからね!!絶対だよ!!」
「…また2人しかわからない話してる!」
少し重たくなっていた雰囲気が、アルミンの“海”の話で明るくなると、3人は立ち上がって兵舎へと戻ったいった。
次第に足音も遠くなっていく。
完全に話し声と足音が聞こえなくなると、ここにいるのはもうリヴァイとクレアだけだ。