第70章 前夜・交わる想い
そのため、雷槍ができてからは、訓練の内容はほぼ雷槍の命中率を上げるようなメニューに絞り込まれた。
特にクレアは身体が小さいため重量のある雷槍の命中率を上げるのに苦労させられていた。
体力は周りと変わらずあるのだが、物理的に小さいため、少しバランスを崩すと的を外してしまう。
クレアは全体の訓練の他にも、個人で筋トレが日課となった。
日々の訓練に雷槍の改良、そしてまた訓練。
雷槍が登場してからの日々は目まぐるしくすぎていった。
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そしてきたるべきウォール・マリア奪還作戦の前日。
ハンジを始めとする各班長はエルヴィンの執務室で最終確認をしていた。
「ハンジ…エレンの父、グリシャ・イェーガーは、“壁の外から来た人間”である可能性が高いと言った話だが、エレンは他に何か思い出したりはしてないか?」
「ううん、この間話したのが全部だよ。夢で何か見たりもしてないらしい。」
「そうか…」
「物知りなグリシャさんならレイス家に受け継がれる思想の正体すらも何か知っていたのかもしれない。だからウォール・マリアが突破された瞬間、彼は王政の本体であるレイス家の元まですっ飛んで行き、狂気の沙汰に及んだ。おそらくはこの壁に入ってから独力で王政を探るなどしていたんだろう。そんなグリシャさんが遺した地下室…エルヴィンは一体何があると思う?」
「それは…決して言ってはいけなかった事…」
「え?!」
「…イヤ、グリシャ氏が言いたくても言えなかった事。つまり初代レイス王が我々の記憶から消してしまった“世界の記憶”…だと思いたいがここで考えたところでわかるわけがない。」
ハンジの言葉で頭をよぎったのは幼き頃の無知だった自分の姿。
しかし、今の自分には、過去の思い出話をしみじみとしている時間などない。