第10章 奇行種に完敗
どれくらい黙って座っていただろうか、横目でクレアの表情をうかがったが、穏やかな顔で夜空を見上げていた。
クレアは兵服ではなくロング丈のワンピースを着ている。
風呂には入ったのだろうか。
結われていない髪の毛に目をやると、長い髪の毛の先は、腰かけている階段の1段上にのっかってしまっていた。
「……おい、髪の毛が階段についてる。風呂にははいったんだろ?…汚れるぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
クレアは左手を後ろにまわし、髪の毛をまとめると、そのまま左胸の前におろした。
「………。」
リヴァイは思わずその仕草に色っぽさを感じてしまう。
「…髪は伸ばしてるのか?」
動揺を隠すために、他愛もない事を聞いてしまった。
「はい……私の両親はシガンシナ区の巨人襲来で死にました。なので私には母譲りのこの髪と、父譲りのこの瞳しか形見が遺っていません。なのでなかなか短く切る決心がつかなくて……」
「……すまない、悪いことを聞いてしまったな…」
「いえ、いいんです。両親の死はとっくに受け入れていますから。あの襲来で、家は両親と共に一瞬で瓦礫と化しました。形見になるような物は何1つ持ち出せなかったんです。なのでこうして私自身に形見が残っていることが今では嬉しく思えるくらいですよ。」
クレアは星空を見上げながら穏やかに答えた。
「そうか……」
夏の夜空にスーーっと心地よい風が流れると、ほのかに香るのはキンモクセイの香り。
リヴァイはもう1つ、いつかクレアに聞いてみたいことがあった。
今なら聞けるだろうか。
「なぁ、お前に聞きたかったことがある。聞いてもいいか?」
「え?改まってなんでしょうか?……かまいませんが……」
「お前はどうしてキンモクセイの香りが好きなんだ?」
「え?」
リヴァイはずっと気になっていた。
キンモクセイの香りは嫌いではない。
嫌いではないのだが、なぜかいつも心がざわつくような、急かされるような気持ちにさせられていた。
クレアが数ある香りの中からなぜキンモクセイを選んだのか知りたかったのだ。
「少し、長くなりますが…宜しいですか?」
「あぁ。かまわない。」
クレアはゆっくりと話始めた。