第10章 奇行種に完敗
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「ある場所」につながる扉をあけようと手をかけると、一瞬リヴァイの胸は高鳴った。
「……………!!」
かすかにキンモクセイの香りがしたのだ。
焦る気持ちをおさえながら扉をあけると、非常階段を数段おりた所に腰かけていたのは香りの主、クレアであった。
クレアは驚いた顔をしてリヴァイを見上げている。
「おい奇行種、ここでなにしてやがる。」
「へ、兵長?!……兵長こそ、ここに何の御用ですか?」
「あぁ?用も何も、ここは俺が見つけた特等席だ。来たいときにきて何が悪い。」
「えぇ?!えーと……私も以前からここを特等席として愛用していたのですが……」
「ほう…俺はお前より何年も前から調査兵団にいるのだが?」
「ゔ……」
リヴァイの言っていることはもっともだ。
クレアが偶然にも見つけた秘密の特等席は、すでに何年も前からリヴァイのものだったのだ。
ここはおとなしく兵長にゆずろう……
クレアはこの場を去ろうと腰を少し上げた。
「おい待て。どこに行く?」
「え?えっと…部屋に戻ろうかと……」
「どけとは言ってねぇだろ。もう1人でうろつくな。」
リヴァイはカンカンと階段を降りるとクレアの隣にドカッと座った。
非常階段のため幅が狭く、並んで座ると、2人の間にほとんどすき間はできない。
「お前もここから見る星空が好きなのか?」
「はい………時々ここからの星空を見上げては、元気を貰ってました…」
「そうか……」
それっきりリヴァイは黙ってしまった。
肩が触れそうで触れない距離感にクレアはドキドキしていたが、胸が高鳴る理由はそれだけではない。
リヴァイがここの扉をあけるまで、クレアはずっとリヴァイのことを考えていたのだ。
そのリヴァイと今一緒に同じ星空を見上げている。
どけとは言わずに隣にいさせてくれている。
リヴァイは黙ってしまったが、もうじゅうぶんにクレアは嬉しかった。
一方リヴァイは少し戸惑っていた。
クレアのことを少し冷静に考えようと来たのに、まさかの本人にでくわしてしまった。
だが、クレアの隣に座り、この星空を独り占めできる状況は…まぁ悪くなかった。