第10章 奇行種に完敗
生きて帰って、1人前の兵士になりたい
1人前になってハンジさんのために尽くしたい
大切な友人となったフレイアともっとたくさん語り合いたい
そして……
そして……
「……リヴァイ兵長……」
生きて帰って、また兵長の執務室に行きたい……
自分が淹れた紅茶を、「悪くない」と言いながら飲んてほしい……
少しだけ「死」というものがリアルに感じたからだろうか。リヴァイに対する気持ちが素直になってあらわれてくるのを感じた。
自分でも驚くほど、胸の中はリヴァイのことでいっぱいだった。
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「はぁ……」
日が暮れ、暗くなりつつある執務室でリヴァイは、たまらずため息をついた。
壁外調査の前日は午前で訓練が終了し、午後は書類仕事や幹部会議、自身の装備の点検など、やることはそれなりにある。
やることをやり、来るべき時を待つ。
壁外調査前はいつもそうだ。
壁外調査の前日など、何度も何度もそうして過ごしてきた。
今日だって何も特別なことはない。
でもなぜか気持ちが落ち着かず、さっきからため息ばかりだ。
「クソッ、いったいどうしたっていうんだ……」
不機嫌極まりなくつぶやいてはみたが、本当はどうしたかだなんてわかっている。
クレアのことが頭から離れないのだ。
あいつは死ぬようなヤツではない。
そう豪語したのは俺だ。
実際にあいつの立体機動の腕も、冷静さも、判断力も、全てにおいて生きのびれるスキルを持っている。
ゆくゆくは精鋭の兵士にだってなれるだろう。
だが、壁外調査に絶対はない。
クレアとて等しく死の確率とは隣り合わせだ。
俺は、あいつを失うのが怖いのだろうか……
ファーランやイザベルを失った時のように……
彼らを失った日から今日まで後ろを振り向かずまっすぐに前進してきたつもりだったが、クレアに対する独占欲が強くなればなるほど、それを阻止しようとする何かがリヴァイの中でうごめいていた。
自分でも意識していない深い部分では2人のことがトラウマとして残っているのだろうか……
リヴァイは気分を変えようと、椅子から立ち上がると、ある場所に向かった。