第69章 仲間
クレアはまるで男の厭らしい願望が形になった様な女だ。
美しいのに、どこかあどけない顔。
純真で汚れを知らない。
どこまでも健気な姿。
鈴がなるような可愛らしい声。
全てを包み込んでしまう優しくて明るい笑顔。
そんなクレアを前にして紳士でいるのには、相当な精神力が求められる。
身も心も弱った時にクレアの姿はかえって毒だ。
現にこの腕を失った時、魔がさしたエルヴィンは危うくリヴァイから削がれる所だったのだ。
だが今日はクレアと2人きりになりたいという下心も否定はできぬが、見舞いにきたのだ。
今の自分は腕を失い生死を彷徨った直後ではない。
間違いは起こさないだろう。
クレアに会いに来た正当な理由を改めて思い出すと、なんとか平常心を取り戻す事ができた。
「ほら、焼き菓子もある。これは先日内地で買ってきた物なんだ。なんでも、新しくできた店で若い女性に人気らしい。」
「あ、ありがとうございます!!どれも美味しそうです!」
山の様に積まれた焼き菓子はどれも美味しそうでどれを取ろうかクレアは手を右往左往させて迷ってしまった。
「はは、迷ってるのか?」
「あ!す、すみません…私ったら…こんな行儀の悪い事を…」
クレアは思わず手を引っ込めてしまった。
「そういう事ではないよ。どれを取ろうか目を輝かせて迷っているクレアが可愛くてね。」
「そ、そんな…」
「迷っているなら全部食べたらいい。それなら上から取ればいいから迷う必要もない。」
自分の事をサラリと“可愛い”と言ったエルヴィン。
調査兵団のカリスマ的な存在であるエルヴィンに、そんな事を言われて何も感じない女は恐らくいないだろう。
偶然にも、クレアもエルヴィンと似たような事を考えていた。