第69章 仲間
「はい、急に足りなくなってしまった薬品がいくつかでてきてしまったようで、午前中は留守にすると仰ってました。そろそろお戻りになる頃だと思うのですが…」
「そうだったのか。」
「あの…団長?」
「ん?」
「腕の調子はどうですか?まだ…痛みますか?」
「…………」
思ってもみなかったクレアの言葉に、エルヴィンはすぐに返事をする事ができなかった。
自分はクレアの身体を見舞うために来たのだ。
なのに、クレアは真剣な顔で、巨人によって使い物にならなくなったこの腕を心配している。
真っ直ぐと見つめる宝石の様な深い蒼色の瞳は、なんの汚れもなく清廉だ。
こんなに透き通るような視線で心配されてしまえば、退屈しのぎにとかこつけてクレアに会いに来た自分は、まるであくどい手口で近づくペテン師ではないか。
無自覚で鈍感なクレアを前にしてしまうと、どうしたっていつもの調子が崩れてしまう。
エルヴィンは心の中で小さく両手を上げて降参すると、優しくクレアの質問に答えてやった。
「ありがとうクレア。君の看護のおかけですっかり良くなった。だいぶ時間もたっているし、もう痛む事はない。」
「本当ですか…よかったです!!あ、でも私は先生の指示通りにしていただけなので…私のおかげではなくて、先生のおかげですよ?」
エルヴィンの返事を聞いたクレアは心底安心した様で、右手を胸に当ててフゥと息を吐いた。
自分の事よりも他人の事を心配し、満面の笑みで安堵している。
こんな健気な姿をみて、胸がざわつかぬ男など、この壁内にはいないだろう。