第68章 出会いと別れ
「わ、私の目があなたを見ているという事は…あなたはもう…私のお腹の中からはいなくなってしまうのね?」
どんな形であれ自身の胎内から出てきている。
医務室のベッドで意識を手放す前に、確かに医師は「流産の可能性がある」と言っていた。
クレアは医師の言っていた事が、その通りに起こったのだと解釈した様だ。
『…………』
すると、嬉しそうに跳ねていた光が、少し寂しそうにクレアにすり寄ってくる。
『うん…実はね…そうなんだ…だから、お別れを言いにきたの…』
「………」
クレアは、言葉も涙も出てこなかった。
もうこの淀んだ空間から意識を取り戻せば、この小さな命と言葉を交わす事はできなくなる。
なのに、今自分がどんな感情なのかさえわからず、黙ってしまった。
そんなクレアの心の内を察してか光は優しく語りかける。
『母さん…どうか自分を責めないで。こうなってしまったのは、誰のせいでもないんだ。』
「え……?」
『ん〜と、ちょっとね、戻らなくちゃいけなくなって…それに…忘れ物もしちゃったんだ。だから…お母様は自分を責めて泣かないでね…きっと、きっと…またママのお腹に戻ってくるから……』
そう言うと、光の集合体はバラバラになり、クレアの全身を包み込んだ。
「あ、あの…!待って…!!」
きっとこれが最後だ。
何か言わなければ、絶対に後悔する。
しかし、小さな光達がクレアの全身を包み込むと、遠くの夜空からでもはっきりと見える一等星の様に明るく輝き、視界は一気に真っ白になった。