第10章 奇行種に完敗
少し腑に落ちないながらも顔を上げると、食堂の入り口にエルドの姿が目に入り、こちらの様子を伺ってるのが見えた。
「あ、フレイア。エルドさんだよ!」
「え?本当に?」
「いいから早く!行ってらっしゃい!」
「あ、ありがとうクレア!」
自分のモヤモヤを解消したい気持ちもあったが、大切な友人フレイアの大切な恋人との時間を取ってしまうわけにはいかない。
クレアは自分の話は早々に切り上げ、フレイアを見送った。
昼食後、明日の準備にとりかかったが、クレアは新兵だ。
準備といっても立体機動装置と馬具の点検、信煙弾の準備くらいだ。
そして、クレアには高度な医療技術があるため、麻酔や縫合器具などが詰められた医療セットをエルヴィンから渡されていたが、そちらはすでに確認済みであった。
時刻は3時過ぎ、特に用事はなかったがなんとなく厩舎に向かい、デイジーの様子を見に行く。
のんびりウトウトしていたデイジーの頸を優しく撫でてやると、ふいにいい考えが浮かび、クレアは馬具倉庫へと走った。
目的の物はおそらく小さな箱に入っているはずだが、調査兵団ではまず使うことはない。
あればラッキーだが、なければ街まで買いに行かなければならない。
薄暗い倉庫の中を探すこと15分。
蹄鉄などがしまわれている棚の隅に小さな箱を発見した。
ホコリのかぶった箱をそうっとあけてみると、見事目的の物であった。
「やった!」
クレアはその箱を胸に抱えてデイジーのもとまで走った。
「ねぇデイジー!明日は私達の初陣よ!デイジーも準備しましょう。」
クレアは踏み台を使いデイジーの左側に立つと、例の箱を開けて準備を始めた。
箱の中身は鉄櫛と、小さなゴムと、つや出しの油だ。
クレアはデイジーの全てのたてがみを櫛で手前にむかってとくと、まんべんなく油をぬった。
艶の出たたてがみを、15個程の束にわけてゴムで仮どめすると、1つずつ丁寧に三つ編みをしていく。
額を含む全ての三つ編みを、団子状にしてゴムでとめればたてがみの正装のできあがりだ。
「できた!すごい!デイジー!美人だよ。すごい素敵!」