第10章 奇行種に完敗
「えぇ?い、いきなり何?」
「あのさぁ、クレア、毎朝早くから兵長の執務室に行ってるでしょ?」
「?!」
「噂って大袈裟なものにはなってないけど、同期で兵長の部屋からでてくるクレアを何度か見た子がいるんだよね。」
「そ、それは……」
まずい……いつかはこうなるのではないかとわかってはいたが、今がその時か……嘘のない範囲で説明するしかなさそうだ。
「兵長の部屋には…ちょっと事情があって、朝部屋の掃除したり、執務を手伝ったりしてるだけだよ?」
「……事情?」
「たまたまなんだけど、掃除の仕方を褒められてね……任されることになったんだ。」
「…そうなんだ。いい関係ってわけじゃないんだ?」
フレイアにはなんとなくだが、リヴァイとクレアはお互いに想いあっている様に見えていた。
ただこの鈍感なクレアのことだ。
好きな人と聞けばハンジと答えてしまうほど、こじらせ度は重度の大鈍感女である。
リヴァイの恋愛遍歴なんて知らないが、どこかで大きく遠回りをしているのは確実であろう。
「ち、違うよ。た、確かに……兵長にはたくさん助けて貰ったし、怖いとかは思ってないけど……でも兵長は私のこと奇行種って変なあだ名つけるし…でも、優しいところもあるし……あぁぁぁぁぁぁ!!もう!」
クレア自身もこの胸の中をかき乱す感情の正体がわからず、少しムシャクシャしていた。
これは恋なのか、恋ではないのか…
リヴァイのことが好きなのか、好きではないのか…
自分では肯定も否定もできない。
いっそ誰かにこの感情の正体がなんなのか教えてもらいたいくらいだった。
クシャクシャと頭をかきだしてしまったクレアにフレイアは助け船を出してやりたい気持ちにもなったが、今のクレアに助け船を出しても、その船さえ遠回りしかねない。
ここは自分で悟らなければ何も前進しないだろう。
フレイアは命を懸け合う兵士としてはもちろんだが、大切な友人としてもクレアに幸せになってもらいたいと思っていた。
「まぁまぁ、落ち着いて!もしクレアが兵長のこと、好きだと思ってるならそのうち悟るから大丈夫だよ!」
今のフレイアではこのアドバイスが精一杯であった。
「そういうものかなぁ……」