第67章 約束
ーじゃあ、また会いに来てねー
次会える約束なんてどこにもないが、他に気の利いた別れ言葉が見つからなかったタリアは仕方なくいつもの常套句を笑顔で口にしようとしたのだが、何か考え込んだ様なモブリットの表情にその言葉は引っ込んでしまう。
「モブリット…?どうしたの?」
思えばシャワーを浴びてる時からモブリットの口数は少なかった。
やはり最後のアレは、気分を害してしまっただろうか。
タリアがどう謝罪をしようかとあたふた戸惑っていると、モブリットはそっとタリアの手を握り真っ直ぐとその目を見つめた。
「タリア…聞いて欲しい願いがある。」
「え…!?…な、なぁに?」
真っ直ぐと自身を見つめるその目に怒りの様な感情は感じられず少し安堵したが、モブリットが改まって“願い事”など、いったい何だろうか。
タリアは戸惑いながらもその先が語られるのをじっと待った。
「タリアは、君は昼間外に出る事はできるのか?た、例えば俺が昼に君と外で会いたいと言ったらそれは可能なのか?もちろん、金は言われた額を払う…」
「私と…外で…?」
「あぁ…そうだ。」
まさかの申し出にどう答えようかと迷ったが、自分にはモブリット以外指名する客はいない年増の娼婦だ。
昼の仕事もあるが、もちろんどちらも休日はある。
その日ならきっと店主も外で男と会っても文句は言わないだろう。
「えと…昼間の仕事も夜の仕事も休日くらいあるわ…その日ならきっと会える…お金は、いらない…でも…どうして?」
理由が知りたくて握られた手をタリアもギュッと握り返す。
すると、モブリットは迷った様な、照れくさそうな、色んな感情と葛藤してる様な表情でタリアに言った。