第66章 クーデターのその後
結論から言えばキースは何か重要な秘密を知っている訳ではなかった。
だが、エレンの父グリシャ・イェーガーの存在そのものが少し明るみになった。
それは20年程前、壁外調査から帰還したキースが、壁外でうろついているグリシャと出会ったのが、交流の始まり。
自分の名と職業以外、記憶を失ったと主張したグリシャ。
ホロ酔いで仕事をしていたハンネスの、“コイツのせいで被害者が出たわけじゃないんだ”、という言葉で、グリシャは上には報告される事はなく、2人の判断で釈放される流れとなったのだ。
グリシャは壁内の暮らしや兵団組織の事をしきりに知りたがった。
記憶喪失というよりは、むしろ本当に何も知らずに興味を示している、という言葉の方が正しかったかもしれない。
そしてキース行きつけの酒場でエレンの母カルラと出会い、流行り病から街を救った後2人は夫婦となったのだ。
そして月日は流れ、皆の記憶に新しい5年前の惨劇。
あの時、確かにキースはエレンの記憶の通りグリシャに会っていた。
血相を変えて各避難所を回り、エレンを見つけると、そのまま抱き上げてグリシャは人気のない森の中へと消えていったという。
ついてくこないでくれ。
どうか関わらないでくれ。
そう言い残すと暗闇にその姿は消えていったのだが、程なくして真っ暗な森に落雷の様な光が放たれ、不審に思ったキースがその光の元まで駆けつけると、そこにいたのは気を失っているエレンのみで、グリシャの姿は無かった。
「そして私はお前を避難所の寝床に戻した。それが私の知る全てだ…」
そう締めくくるキース・シャーディス。
確かに重大な巨人の秘密を知っていたわけではなかったが、エレンの父、グリシャ・イェーガーは、もしかすると、壁の外からやってきた人間だったのではないかという仮説が自然と浮かび上がる。
そして、巨人の力を有していて、それをエレンに継承させたのだろう。