第65章 女王、ヒストリア・レイスの即位
何も声をかけてやれず、ただ見守る事しかできなかったクレア。
しかし、ヒストリアは拳を握って覚悟を決めたのか、高らかと雄叫びを上げると、リヴァイめがけて猛突進した。
「うっ…つっ…うああああああああ!!!!」
完全に目が据わっているが、大丈夫だろうか。
「あぁ!!!!」
ーボグッ!!!ー
威勢のいいかけ声と共にその拳はリヴァイの左腕あたりを攻撃したのだが…
正直あまりダメージは与えてなさそうだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
しかし、ヒストリアがリヴァイを殴ったという事実に104期は興奮気味に大歓声を上げる。
「ハハハハハハ!!どうだ!私は女王様だぞー?!」
本当にやりやがった。
皆そんな気持ちだったに違いない。
しかし、肝心のリヴァイはどう反応するのだろうか。
不機嫌な顔をより不機嫌にさせて何か小言を言うだろうか。
止めなかった周りの新兵達に何か罰を与えるだろうか。
それとも、女王相手には何も言えずに無言で去っていくだろうか。
しかし、リヴァイの反応は皆の予想を遥かにこえるモノだった。
「ふふ……」
「…………!?」
笑った…?
うつむいていて表情はよくわからないが確かに小さく笑った。
その様子に皆顔の筋肉を強張らせて冷や汗が頬を伝う。
「お前ら…ありがとうな……」
「…………」
リヴァイが無慈悲な冷徹漢でない事は、今回のクーデターで皆よく理解していた。
だが、いつも不機嫌そうに黙っていて、クレアと仲良くしようものなら鋭い睨みが入り、コメントも突っ込みも辛辣で厳しいのがリヴァイだ。
そんなリヴァイが、今、目の前で笑っている。
少しぎこちなく見えなくもないが、目元も口元も、今まで見てきた中で1番柔らかい。