第65章 女王、ヒストリア・レイスの即位
ヒストリアは戴冠式も済ませて名実共にこの壁の女王となったのだ。まさかこんな公衆の面前まで出てきてリヴァイを殴るなんてスキャンダル、まずはするわけがないだろう。
「どうした?」
「い、いえ…あ、そういえば、104期の皆さんはどちらに行ったのでしょうか?」
オドオドしている自分の態度に不信感を抱かせてしまっただろうか。
クレアは精一杯平静を装いながら答えた。
「あぁ、確かにいないな…まぁ今日は戴冠式で臨時休暇になったし、その辺の露店で飲み食いでもしてるんじゃないのか?」
「そ、そうですね…」
ミカサ達と合流してはと思ったが、露店にいるのならなおの事ヒストリアが出てくるのは無理であろう。
「なんだ?アイツらに何か用事か?」
「い、いえ…そういうわけでは…」
「なら早く帰るぞ。今日は俺も臨時休暇だ…兵舎に戻ったらそのまま俺の部屋に来い…ヤリてぇ事が山積みだ。」
そう言ってクレアの肩を抱いたリヴァイは、額に唇を当ててキンモクセイの香りを吸い込んだ。
「へ、兵長…!!い、いけません!周りにひ、人が!!人が!!」
部屋に来いだのヤリてぇ事だのそんな台詞、誰かが聞いていたらどうするのだ。
クレアは顔を真っ赤にさせて慌てるが、言った本人はどこ吹く風だ。
「別にいいだろこれくらい…それともなんだ?お前はこんな所を見られたくない男でもいるのか?そういや訓練兵団で“オトモダチ”になったって男の同期が確か憲兵団だったな?ヤツが近くにいるのか?」
しかも、クレアが慌てた理由にありもしないヤキモチを妬いて眉間にシワを寄せている。
「そんな事ないです!!」
「ならいいだろ。さっさと帰るぞ…」
こんなとばっちりはごめんだ。
クレアはこれ以上引き止めるのは無理だと判断すると、おとなしく馬を待機させている厩舎へと向かった。