第65章 女王、ヒストリア・レイスの即位
あの時ロッド・レイスを討伐したのがヒストリアではなかったと口にする者は誰もいなかった。
クレアがヒストリアになりすまして討伐したのは、おそらくリヴァイとハンジとエルヴィンにしかバレてなさそうだ。
ホッと安堵しながらクレアも歓声に合わせて拍手をすると、隣にいたリヴァイが声をかけてきた。
「ヒストリアの話って何だったんだ?」
「ヒッ…?!」
いきなり声をかけられたのと、ヒストリアと話していた内容を思い出したクレアはビクリと背筋を伸ばして裏返った声を出してしまう。
「なんだよその声は…いったい何話してたんだよ…」
思ってもみなかったクレアの反応に、怪訝な表情で顔を覗き込むが、“あの話”を悟られるわけにはいかない。
「あ、いえ…実は、ヒストリアから髪の毛をセットしてもらいたいと言われまして。おそれながらも私がヒストリアのヘアセットをやらせていただきました。」
「…そうだったのか。」
立派な王冠の下には美しく編まれた金髪がまとめられている。
舞台から離れた席でも品があり、今着ている白いドレスにもよく合っているのがわかる。
リヴァイは関心したようにボソリと返事をした。
「……………」
“あの話”はギリギリ悟られてはなさそうだ。
なんとかやりすごす事ができてクレアはホッと胸をなでおろした。
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昼過ぎに戴冠式は終わったが、街中は御祝いとばかりに色んな露店が出ていたため、閉会後もみな酒を飲んだりとお祭り騒ぎだった。
「ホラ、帰るぞ…」
「え、あ…あの…」
リヴァイは席から立つとクレアの手を取って立たせた。
この様子だともう兵舎に帰るつもりなのだろう。
クレアはヒストリアとの話を忘れたわけではないが、いったいどうやってリヴァイの元まで来るつもりなのかわからずどうしたものかとまごついてしまった。